松本よし乃 2013年「岳」七月号 『特集 「岳」三十五周年記念号を読む』より
三十五周年記念号を手にしたとき、「ふーむ、分厚いな」と思いつつ本を二つに割ってみた。
見るともなく目の端に飛び込んだのが「寒卵割る遥かまで地平線」の句。
その句にくぎ付けにされた。「遥かまで地平線」に心を鷲掴みにされたのである。
手元の寒卵から一気に地平線へと広がる気宇壮大な感覚にひれ伏した。作者は島田葉月。記念号の三分の一辺りの、百二十一頁だった。
それから「特別作品」の前後の句を次々と読む羽目に。
初天神のどに転がす薄荷飴 栗原利代子
ヴィオロンのハーモニスクと薄氷と 岩咲 さら
菠薐草インカの塩を一振りす 中里 結
充ちし日は椿の中に眠りたし 矢島 恵
「充ちし日は」の金色の蕊とくれないの花びらの褥。目眩く原色の一夜は想像を絶する物狂おしさゆえに、充実した日の強靭な心身を浮かび上がらせる。
「特別作品」を全て取り上げる紙数がないので省略するが、私の渇望して止まない句境がそこにあった。
その境地が私には到底到達し得ない高嶺であることもわかっていた。わかっているからこそ、乾いた喉に水を流し込むように、貪り読んだのであろう。
尊敬と憧憬を心に刻んだ三十五周年記念号の強烈な第一印象である。
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