「燕岳コマクサ紀行」
北アルプス三大登りの一つ「合戦尾根」は、中房温泉から燕山荘まで5時間の
コースである。
高度を上げるにつれて富士が見え、槍の穂先がのぞき、やがて主
稜線に出て眼前の展望に圧倒され、疲れを忘れる。
右に立山連峰、正面に裏銀座コースの山々、左は槍ヶ岳から穂高連峰の岩稜。
合戦の頭を過ぎて燕山荘を望みながら歩いていた時、ハイマツの横に大きな黒
いフンを見た。クマにちがいない。テリトリーを誇示するような威圧感があった。
燕岳山頂直下は、花崗岩の上に砂礫がのっていて滑りやすい。女二人、慎重に
歩いて頂上に立つ。
八月一日正午、晴れ。リンゴほどもあるネクタリンを皮ごと
かじる。さわやかな甘さが口中にひろがって緊張がほぐれていくのが分かる。
北燕岳の白砂の大斜面に杭の行列が見えた。コマクサ保護のため立ち入り禁止
のロープが張られているのだ。昼食もそこそこに、そちらへ向かう。
予想をはるかに超えたコマクサの大群落である。砂礫の白に、コマクサの銀緑
色の葉とピンクの花の色。その三色だけの世界。
空の青さが眼にしみる。なんという広大な花園だろう。花の女王のオン・パレ
―ドだ。
夜、燕山荘のオーナーによる「アルプホルンの演奏と山のお話」があった。
や
はり出没するクマ対策に困っているとのこと。人に害はないけれど、残飯をねら
って深夜現れる。催涙弾で追っ払うのだが、風向きで宿泊者の方に流れたりして
「サリンだ」と間違われて弱りました と温和なオーナーは話し上手であった。
翌日、朝焼けの槍ヶ岳に満足して下山した。コマクサの花盛りに出合うことが
できて、神様に感謝している 。
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