厳冬の笹ヶ峰

行きたくてウズウズしていた雪山のお誘いがかかった。行き先は西条市の笹ヶ峰。厳冬の1850メートルは、あなどれぬ風雪であろう。

「何を着て行こうかしら」。うれしさの中で受話器を置きながら考える。登山といえども、いや、モノトーンの雪山登山だからこそ、身につける物の色を選ぶのは楽しいし、素材との兼ね合いもある。

 2月20日、登山口は雪曇り。リーダーのMさんを先頭に男女二人づつ四人のパーテイーで出発した。
凍ってはいたけれど積雪は少なかったので、スパッツとアイゼンを装着して、氷をかむ足音の響きも心地よく、1時間半で山小屋「丸山荘」に到着。伊藤さん夫妻の笑顔と名犬クロチャンに再会できた。

 小屋の玄関土間は濡れたハンカチがすぐに凍ってしまう寒さ。全員の体から湯気が立ちのぼる。急いでカッパを着て体温の発散を防ぎ、昼食をとる。

 ここから山頂へ1時間のコースである。オーバーズボンをはき、スパッツとアイゼンを再装備して登る。さすがに雪が深い。数年前、雪崩で死亡者の出たあたりは、林の斜面を転がってきた大小の雪玉が不気味な静けさを保っていた。

 樹林を過ぎて、ササがわずかに見えている雪面を歩くころから、激しい吹雪になった。
 2時25分、笹ヶ峰の頂上に立つ。渦巻く烈風のため山頂は雪がない。まぶたが重い。まつ毛が白く凍っているのだ。顔を見合わせて笑ってしまう。視界は5、6メートル。方位盤で石鎚と赤石山系の方向を知るが、白い闇のかなたである。

 熱いコーンポタージュを作って体内を温める。20分ほどで下山することにした。
石積みの祠に感謝をささげ、登山道に入った途端、向かい風に顔面の皮膚を持って行かれそうな恐怖を感じた。
 タオルで覆面をしてフードの口を閉める。登ってきた時の足跡は降りこむ雪に消されていたが、リーダーの的確な判断で瓶ヶ森への分岐点標識を目がけて直下降し、樹林に入って息をついた。

 腰に達する深雪の登山の経験はあるけど、吹雪の山は初体験であった。全員冷静に行動し、貴重な冬山トレーニングができたと喜べたことは、この上ない成果である。

 

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